交通事故

Q&A 行政書士が被害者請求をすることは弁護士法違反になりませんか?

 

行政書士が自賠責法上の被害者請求をすることは,弁護士法第72条に違反しますので,できません。
■ 弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
 
 弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,異議申立て,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし,この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。

 

弁護士法72条が,弁護士でない者が他人の法律事件に介入することを業とすることを禁止しています。それは,他人の法律事件に介入することを業とすることができる者を弁護士に限定することにより,当事者その他の関係者らの利益を守り,ひいては法律秩序を守るためです。任意保険会社と示談交渉を引き受けることは当然ですが,自動車損害賠償保障法第16条による保険金請求手続(被害者請求)を行うことも,弁護士法72条の「その他一般の法律事件に関して」「その他の法律事務を取り扱」う行為に当たるといえ,弁護士以外の者がこの被害者請求を行うことはできません。
したがって,行政書士が被害者請求を行うことは弁護士法72条に抵触するものであり,刑事罰の対象となります。

これに対して,行政書士の中には,自治省(現総務省)行政課長の回答(昭和47年5月8日 自治行第33号)等を根拠に,被害者請求は弁護士法72条に違反しないと主張して被害者請求を行っている方がかなり多くいます。
実際にある行政書士から,当事務所宛にそのような指摘(抗議?)がありました。しかしながら,行政書士のこのような主張は失当というほかありません。そもそも法令の解釈適用は裁判所の専権事項であり,行政機関で法令の解釈適用の権限を有しない行政機関である総務省の回答を根拠とすることは全く的外れです。
それでは裁判所はこの問題に対して,どのような判断を下しているのでしょうか?
東京高裁は,行政書士が,被害者請求を行った行為(自賠法に基づく,自賠責保険金の交付を受けるために必要な書類を作成・提出するなど請求に関する一切の手続を行い,かつ,決定された保険金を受領する行為)が弁護士法第72条にいわゆる「その他の法律事務」にあたるかが争われた事件について,次のように判断しました。

■東京高裁昭和39年(う)第126号同年9月29日第8刑事部判決
 
 示談交渉,示談契約の締結,示談金の受領等の諸行為の全部又は一部は,弁護士法第72条の「その他一般の法律事件」にあたることは明らかであるとした上で,さらに,自賠法上の被害者請求について,交通事故に基づく損害賠償に関する示談においては,通常示談金額は被害者に支払われた若しくは支払われるべき保険金額を勘案して決定されるのであるから,保険金の請求権の存在及びその金額の算定はいわば示談の前提条件で,これと切り離して考えることのできない関係にあり,現に被告人も保険金の請求及び受領と同時若しくは前後して示談交渉を進めているのであり,したがつて,以上保険金の請求,受領及び示談に関する事務はこれを包括して観察し,全体として法律事務に当るものと解するのが相当であるとして,弁護士法第72条に違反すると判断し,被告人である行政書士に,懲役6月,執行猶予3年の刑罰を科す。

 

これに対して,平成13年の行政書士法改正(平成13年法律第77号)により,契約その他に関する書類を代理人として作成することが行政書士の業務とされたこと(同法1条の3第2号)を根拠に,被害者請求が可能となったかのように主張される行政書士もいるかもしれませんが,この条項は従来の行政書士の業務範囲を明確化したものに過ぎず,新たに本人の代理人として相手方と交渉することまでを認めたものではないとされています。
確かに,行政書士は,事実証明・権利義務を証明する契約その他に関する書類を代理人として作成することはできますが(同法1条の3第2号),そもそも被害者請求は,事例の分析,過失割合の認定,休業損害や後遺障害等級の認定等の法的判断が必要となり,法的判断が必要であることは明らかです。したがって,行政書士が,被害者請求を行うことは弁護士法第72条に違反していると言えます。
行政書士の中には,本人から聴取した事実関係・法律関係を整理して文書を作成しているだけと反論する方がおられますが,以上のとおり失当であることは明らかですし,そもそも仮にそのような仕事しかしていないのであれば,被害者の方が,わざわざ報酬を支払ってその程度の範囲しか業務を行わない行政書士に依頼する意味がどこにあるのでしょうか。
なお,以上は裁判例等を踏まえた当事務所の私見に過ぎませんが,もし反論があるようでしたら,氏名・所在地を明らかにしたうえで反論されるようお願い致します。